子ども・若者に安心の居場所づくり 子ども・若者に安心の居場所づくり 子ども・若者に安心の居場所づくり

子ども・若者に安心の居場所づくり

フリースクール、居場所、フリースペース、就労訓練、就労体験と、困難を抱える子どもや若者の求めるものを作り続け、入り口である相談から出口の就労等の自立までを総合的に一貫して支援できるようにと設置された、一般社団法人栃木県若年者支援機構。
スタッフはどんな思いで仕事に携わり、どんな思いで子ども・若者に向き合っているのか。今回、子どもの居場所「キッズハウスいろどり」の担当職員である荻野友香里さん、子どもの学習支援や若者の就労支援の担当職員である吉井ひさのさんにお話を伺いました。

左:吉井ひさのさん 右:荻野友香里さん

若年者支援機構とは

栃木県若年者支援機構は、「全ての子どもや若者が将来に希望を持てる未来をつくる」ことをミッションに、次の3つのテーマに取り組んでいます。 ①一人ひとりの子ども・若者と、その家族を支えること。 ②社会の中に、子ども・若者のセーフティーネットをつくること。 ③子ども・若者を育む地域社会を築くこと。地域で顔と顔が見える地道な活動をしつつ、子ども・若者支援が全国に広まるようガイドブックや講演会などにより周知を図っています。

ここでいう子どもとは、小学生や中学生(義務教育まで)が対象です。発達障害や貧困状態にある子どもへ、学習支援や子ども食堂を通じて居場所づくりをしています。
また、若者とは義務教育を終えた人が対象です。不登校や引きこもり、会社でうまくいかず鬱になったなど、社会に出られなくなる要因はさまざまです。そういった社会との接点がない状況の若者が、もう一度社会へ復帰するためのサポートをしています。具体的には、相談を受けたり、ジョブトレーナーによる就労支援をしたりしています。

子どもの第3の居場所である「キッズハウスいろどり」

キッズハウスいろどりは、「食べる」「学ぶ」「遊ぶ」「安心」をモットーにした、“子どもたちみんなの家”。いろどりができるまで、若年者支援機構では学習支援が主な活動でした。荻野さんは、活動を続けていくうちに、学びだけでなく食も重要だと気づいたとのこと。親が働いていて家に一人でいる子どもは、ご飯を満足に食べられなかったり、孤食であったり…。そこで子ども食堂を始め、地域の人で集まって食事を一緒に食べるようになりました。子どもと一緒に食べているうちに、子どもの悩みに触れるようになりました。「居場所がない」「家に帰りたくないから、夜に遊び歩いている」…子どもたちの声から現状に気づいたそうです。これまで、「学びの場」「食事の場」と切り取っていた活動を、一つにまとめて総合的に支援していく拠点が必要。そうして生まれたのがキッズハウスいろどりです。

子どもが抱える悩みも、家庭環境もそれぞれです。いろどりはワンストップで総合的な支援に結び付けられる拠点なのですね。では、子どもの抱える困難に気づくためにはどんなことに気をつけているのでしょうか。

荻野さんは、子どもにまず必要なのは安心だと言います。
「基本的に子どもはみんな、慣れないとしゃべりません。いろいろ聞き出そうとするのではなく、まずはご飯を食べて安心してもらう。すると徐々に子どものほうから話をしてくれるようになる。そのときに、話を聞いてあげる体制をつくるようにしています。」

小さいころから親が働きに出ており、親といる時間を十分に持てない子ども。そういった子は、親に甘えるという経験をせず大きくなります。自分のことを気にかけてくれる、自分の話を聞いてくれる大人がいるという安心感が彼らにはまず必要だそうです。まずは安心してもらって継続的に来てもらうことが一つの大きな課題となっています。いろどりでは、まず食事を大切にして、その他の時間は一緒にお話をしたり、絵が好きな子は絵を描いたりと、子どもがやりたいことや好きなことをしています。また、体を使った遊びも大切にしており、近くの公園にみんなで行って、走り回ったり遊んだりしています。時にはだらだら過ごすこともあるそう。

「子どもにとって、親でもない、学校の先生でもない大人だからこそ、言えることもあります。」と荻野さん。どうしても、学校の先生からは学校に行くように言われたり、できてないことを言われたりすると思っている子どもがいるそうです。「来なさい来なさい」と先生に言われるから行きたくない」と言う子どもも。そんな子どもの悩みを受け止める、家でも学校でもない「第3の居場所」になっているのだなと感じました。

普段の子ども食堂は、いろんな人が来ていてにぎやかで、不登校の子の中には、そういう場所にはなかなか来られない子もいます。そのため、不登校の子ども対象の曜日も設けています。とある、中学校3年間学校へ行っていない子は、いろどりができてから毎週欠かさず来ているそうです。

荻野さんは、「その子にとっていろどりが成長の場というか一つのステップとなったと思います。毎週かならず行く場所があるというのは、その子にとって大きな変化なのでは」と言います。

親や学校の先生は、子どもが学校に行かないとどうしても不安になると思います。いろどりでは、不登校の子どもに対してどんな接し方をしているのでしょうか。

スタッフには、学校へ行かないことに対して、のっけから「だめ」と言う人はいないそうです。子どもが「行かない」という選択をしたことを責めません。ただ、もうすぐ義務教育を終える中学3年生には、卒業した先のことを一緒に考えていかなきゃいけない、と言います。高校へ行くのか行かないのか。社会に出ても守ってくれる存在は多くありません。
荻野さんは、子どもが自身の将来について考えられる「環境」が重要だと言います。
「家の中にずっといて、話せる大人も限られていると、自分の将来について考える機会がなかったかもしれない。いろどりに足を運ぶことで、少しずつでも、自分の将来について考えられる環境になっているのかなと思います」

仕事のきっかけ

荻野さんは最初からNPOで働いていたわけではなく、一度、一般企業へ就職しました。ちゃんとした正社員になって親を安心させたいとの思いがあったそうです。しかし働いてみると「なんか違うな」という思いが生まれました。大きな会社だったので、自分が歯車の一つのように感じたそうです。たとえ、自分がいなくても会社は何も変わらないのではないか…。

そこでもともと興味があったNPOの世界へ行こうと決意。しかし当初は、自分には何ができるのかな、と迷いもあったそうです。そんな時、偶然の出会いがありました。知り合ったばかりのトチギ環境未来基地というNPO法人の塚本竜也さんとの会話の中で、「子どもの貧困って知ってる?」と聞かれたそうです。それまで「子どもの貧困」という言葉自体知らなかった荻野さんは、まさか日本にそんな課題があるとは、と衝撃を受けました。そこで何かできないかと探し、子ども食堂で一緒にご飯を作って食べることなら自分にもできるかなと思い、若年者支援機構へ来ることとなりました。

荻野さんはなぜNPOに興味があったのでしょうか。それは大学生の時、東日本大震災でのボランティア経験があったからだと言います。
「そこで出会った人はNPOで働いている人がたくさんいました。自分のやりたいことをしていてすごく輝いているように見えたんです。そういう世界の人に接していなければ、NPOのことは全然知らなかったと思う」

以前とは比べものにならないくらい、毎日やりがいを感じていると言う荻野さん。
「以前勤めていたところでは、自分の意見がなくてもできる仕事でした。今は、どうしたら子どものためになるのか、なにが子どもに必要なのか日々考えながら行動しています。また、必要だと思ったことは提案して、実現させてもらえる環境です。一番のやりがいは、子どもたちがここを好きになってくれること。一つの居場所をつくれていると思います」

次に、若者の就労支援などを担当されている吉井ひさのさんに、お話を伺いました。

もともと大阪のNPOで若者と地域の活動の架け橋をつくる仕事をしていた吉井さん。そのNPOでは、海外でボランティアをしたいという日本の大学生や、海外から日本に来てボランティアをしたいという外国人学生の受け入れなどのサポートをしていました。国内や海外の出張が多く、楽しく仕事をしていたと言います。行く先々では、その地域に住んで、一つのテーマに焦点を当てて活動をしている人との出会いがありました。そうして「わたしも一つの地域で地に足をつけて活動したい」と思うようになったそうです。そんな時、同じ団体で働いていた塚本さんに、栃木で若者支援の事業が始まると教えてもらい、他のNPOに数年勤務した後、ここ若年者支援機構へ来たそうです。

若者の可能性

以前のNPOで関わっていた若者は、留学や海外ボランティアなど活動的な人が多かったそうです。一方、今、関わっている若者は学校や会社へ行けなくなったなど、社会から距離を置いていて…。同じ若者であっても、社会に対するモチベーションが違うと感じたそうです。

「話しかけても返事もないところから始まって…。最初はわたし自身もどう接していいかわからなかったです」

就労支援で行われるいろんなプログラムを通して、吉井さんはどんな若者にも力があると改めて実感したそうです。
「元気な若者も、今はそうでない若者も、いろんな人に出会っていろんな体験をする中で、自分の中で『これだ!』、『これだったらいけるかも』というようなコツや自分の道を見つけた時、どんどん自分で進んでいく力があるのは一緒だな、と気付きました。一人でいると自分だけでぐるぐる考えてしまう。でもいろんな人と出会うことで道が開く。そういう機会を提供して行けるのはいいな、と思っています」

若者の変化を見ることができたときに嬉しさを感じると言う吉井さん。とある女性の話をしてくださいました。最初は他人と話すこともままならず、本人もその状況に苦しんでいた。しかし、いろんな就労支援プログラムを行い、社会へ出る準備をして、巣立って行きました。そしてつい先日、吉井さんが買い物をしていたところ声をかけられ再会しました。彼女はとても元気そうに、「今仕事に就ていて、1年くらい働いているんですー」と話してくれたそうです。以前は下を向いていた彼女が、幸せそうに過ごしている様子を見て、何とも言えない喜びを感じたとのこと。

次に、子どもと接する上で大切にしていることを伺ってみました。

「上から目線にならないこと」だという荻野さん。あなたのこと知っているよという態度はせず、対等にすることを心がけているそうです。吉井さんは「焦らないで待つ」ことを大切にしています。「つい口出ししたくなることもあるけど、その人が力を発揮できるように信じる。できることがあればサポートするし、時には押すけど基本は待つ」ことを大切にしているそうです。待つことは、その人を信じることなのだと感じました。

代表の中野さんには、取材当日はお会いできなかったのですが、日々、おふたりに「子どもたち自身に力がある。寄り添うことで子どもたち自身が力を発揮する。それを待つことが大切」とおっしゃっているとのことです。

大学生へのメッセージ

「大学生のうちにいろんな人に出会ったり、いろんな環境に身を置いてみたりしてほしい」と荻野さん。
「私は自分で実際に見てみるという経験を大切にしています。人から聞いてこうだったではなくて、自分で見て自分はどう感じるのか。大学卒業してどうしようかなと思っている人や、今すでに決まっている人も、もしかしたら考えが変わるかもしれません。将来のことを今すぐに決める必要はないと思います。特にやりたいことが分からなかったり、バイトなど忙しかったりすると思いますが、大学生は、いろんな経験をしていろんな事に触れられる時間なので、やりたいと思ったことはやってみてほしいと思います」

吉井さんは「何かをやるもやらないも、自分で決めて自分で責任をとる」ことの大切さを教えてくださいました。
「大学生という肩書きは有利です。というのも、大学生と言うと相手からは受け入れてもらえることが多いんです。そんな絶好の機会を生かして大いに挑戦してもらえたらいいと思います。世の中には自分だけでは今すぐに変える事ができない事情や環境があるもの事実です。周りの反対や望んでいる事を優先してしまう事もあると思います。だけど、自分が望んでいる形ではないと感じるのであれば、勇気を出して挑戦してほしいと思います。挑戦すれば、応援してくれる大人にも必ず出会えると私自身の経験からも感じていますし、そんな若者を応援できる大人でありたいと今この仕事をしています。自分の決めた事であれば、例え失敗して後悔したとしても、そのことを受け入れ次への進むステップの力となり、自分の道がみえてくるのだと思います。」

インタビュー・執筆
宮坂真耶|地域デザイン科学部コミュニテイデザイン学科3年

今回インタビューでいろどりにお伺いしました。民家を改装した建物はとても居心地がよく「ちょっと遊びに行こうかな」という気楽な気持ちで行けそうだと思いました。お二人のお話から子どもに対して「こうあるべき」という型に押し込めずに、対等に向き合い、信じて待つことの大切さを知りました。安心できる居場所があって、気にかけて信じてくれる大人の存在があるから、子ども本人は自分の力を信じることができるのではないかなと思いました。面と向かって人に関わる仕事は、成果が見えにくく時間も気力も必要だと思います。単に「働く」ための仕事ではなく、日々自分自身にも多くの学びややりがいを得られているようなお二人の姿を見て、自分もやりがいを持てる仕事に出会いたいと思いました。素敵なお話をありがとうございました!

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