つなぐ、ひと、自然「地元には、伝えるべき魅力がある」 つなぐ、ひと、自然「地元には、伝えるべき魅力がある」 つなぐ、ひと、自然「地元には、伝えるべき魅力がある」

つなぐ、ひと、自然
「地元には、伝えるべき魅力がある」

日光市にある川治温泉は、男鹿川と鬼怒川が合流する緑豊かな渓谷に佇む、静かな温泉郷。会津西街道の宿場町として江戸時代に誕生し、湯治の場として親しまれてきた。現在でも「関東の奥座敷」と称され、関東屈指の大温泉郷として、国内外の観光客に人気が高い。

このまちに生まれ育った坂内剛至さんは、高校進学を機に地元を離れ、大学時代、サラリーマン時代を宇都宮で過ごした。帰省した際、地元に訪れる観光客に、川治の良さを伝えられないもどかしさを感じた経験から、川治にUターン移住し、2005年に豊かな自然を満喫できるアウトドア企業を立ち上げた。

「自然と人をつなぐためのお手伝いをしたい」という思いからNature Planet(Nature+Plan+Network)と名付けられたこの企業は、非日常の癒やしを求めるお客様とともに自然を満喫したいという坂内さんの願いが込められている。

川治の自然のなかで個性的な取り組みを続ける坂内さんにお話を伺った。

川治で生まれて

2005年に川治の温泉街で始まったNature Planet。今では年間5000人以上の利用者が訪れる。昨今の山ガールブームもあって、20代30代の女性客が多いNature Planetでは、のんびりと自然を満喫できる「アウトドア女子会」「ダム湖カヌー」から、男性も満足のアクティブなものまで、様々な企画を提案している。

坂内さん「お客様には、川治の自然の中でストレスを癒やしていただきたいと思っています。都心からいらっしゃるお客様も多いですから、非日常を体験することで開放的な気分を味わっていただけると思います。」

川治で生まれた坂内さん。川遊びや山登りなど豊かな自然の中で成長したという。高校進学を機に地元を離れ、作新学院大学を卒業後、宇都宮で就職した。時折地元に帰ると、観光客から川治の魅力を尋ねられたという。

坂内さん「実家は精肉店を営んでいるのですが、帰省するとよく店を手伝っていました。地元の商店として、観光客の方も立ち寄ってくださるんですよ。観光でいらっしゃったお客様から、『川治で何かいいところないかしら?』と聞かれることが多くありました。そんなとき自分は「『日光江戸村』いきましたか?」とか「『東武ワールドスクエア』いいですよ」とか、レジャー施設ばかりを答えていて。もちろん、レジャー施設は楽しい場所ですから、おすすめですよ(笑)。でも自分が感じる川治の魅力は、やはり豊かな自然だと思うんです。小さい頃からたくさん遊んで、思い出がたくさんあるので。自分が魅力だと思う自然をおすすめしたいと思う一方で、自然の知識もありませんし、ガイドとして案内することもできなくて。おすすめできないことにもどかしさを感じました。その頃から、自分で案内できたらいいのにな、と漠然と考えていました。」

写真提供|ネイチャープラネット

アウトドアアクティビティと出会う

就職先の社員旅行でオーストラリアを訪れた坂内さんは、初めてアウトドアアクティビティを体験することになった。

坂内さん「オーストラリアの美しい自然の中で、ラフティングやシュノーケリングを体験しました。もちろんインストラクターの方がいて、こんな仕事もあるんだと驚きました。それと、川治でもやれるんじゃないか、やってみたい!って直感で思ったんです。お客様に自然を案内できなかった不甲斐ない思いと、自然を相手にする仕事があるという発見が、川治で起業するきっかけになりました。」

起業に向けて

坂内さん「やりたい!と思ってすぐ起業できるわけではないですから、4年間ぐらい修行しました。サラリーマンを辞めてから、平日は宇都宮市にある『冒険活動センター』を中心に野外体験や自然について学んで、休日は民間のアウトドア会社でカヌーの指導をしていました。必要なインストラクターの資格を取って、充実した毎日でした。自分の中に30歳までに独立するという目標があったので、それに向けて頑張りました。」

いざ起業するに当たって、幾度となく壁にぶつかった。その度に、多くの人に支えられたと坂内さんは振り返る。

坂内さん「自分が川治に戻ってきたとき、川治に同級生は一人も残っていませんでした。帰って起業すると言ったとき、地元の皆はすごく喜んで受け入れてくれました。アウトドアアクティビティなんてなじみのない事業に対して、心配する声も多かったんです。でも、事務所にするための空き家を紹介してくれる方もいて、応援してくれていたんだと思います。一民間企業ではカヌーに使っているダム湖の申請すら通りませんでした。地域振興のための市の委託事業という形で、住民の皆さんや市の職員の方が理解を示してくれたことで、今の会社があると思います。」

起業から事業が軌道に乗るまで、多くの投資をして金銭的に不安定な日々を過ごした坂内さん。いつも支えてくれた妻への思いがある。

坂内さん「起業を決断したときには既に妻と結婚していました。決断してから、壁にぶつかる度、自分にできるのかと不安を感じることが多くありました。そんなとき、いつも妻が『やろう!一緒に頑張ろう!』と励ましてくれて。日光市の非常勤講師として働く妻のおかげで、どうにか生計を立てることができました。リスクを負いながらも、自分の目指すもののために努力を続けられたのは、前向きな妻と二人三脚で歩んで来られたからだと、感謝しています。」

自然、仲間、お客様と向き合う企業づくり

ダム湖で行うカヌーは連日予約が入り、天候に恵まれなかった今年の夏であっても休みはなかったという。2008年から始めた「わんちゃんのカヌー」は社長のアイデアが、月1回で開催している「アウトドア女子会」は女性スタッフのアイデアが詰まった人気企画である。

坂内さん「企画を考えるとき改まったミーティングはやってないですね。企画の明確な採用基準も決めていなくて、発想としての面白さとか独創性を買うことが多いです。既にあるものは面白くないので、やりたくないな(笑)。当たり外れもあるんですけど、やってみて失敗しても、そこから学べるものがある。PDCAを実践させることで、個人としても、企業としても成長していきたいです。それに、ベテランのスタッフでも新入りでも、社長でも、意見を自由に言える職場にしたい。お客様との関わりの中で感じたことや頂いた意見、ひらめきは、スタッフ同士で共有して、よりお客様に楽しんでいただけるよう生かしていきたいです。」

今はお休み中のイベント、「アウトドア合コン」。スタッフの気づきやアイデアを取り入れて成功した人気企画のひとつで、その緩さと女性からの人気が特徴である。

坂内さん「コンセプトは『ゆる〜い合コン』なんです。マッチングは一切していません。男女で和気藹々と会話できる機会を提供して、一緒に自然を満喫していただく企画になっています。女性スタッフの『マッチングがあると参加しづらい』という意見を取り入れた結果、毎回参加者は女性の申し込みが多くて。男性を集めるのに苦労するほどなんですよ(笑)。他の企画でも言えることなのですが、お客様には最後まで楽しんでいただきたくて。告白されたりされなかったり、どうしてもうまくいかないことも起きてしまうので。楽しい時間を過ごしていただいて、知り合った友達や異性との繋がりはお客様にお任せしているんです。意外とうまくいって、結婚された方もいるんですよ。」

日々を振り返りながら話をする坂内さんに、女性スタッフの手塚美和さんも笑顔がこぼれる。

手塚さん「意見はすごく言いやすくて、毎日楽しいですよ。ここに来て5年になります。子育てが一段落した頃、大好きな自然と関わる時間を持ちたいと思ったので、宇都宮の『冒険活動センター』に通うことにしました。そこで自然大好き仲間として社長と出会いました。いつも温厚で明るい方で、重い荷物は自ら運ぶし、現場に出るし。とにかくアクティブ。率先して社長が動くので、自分もやらなきゃなって思えるんですよ。私は宇都宮に住んでいるので、毎回1時間半かけて通勤しているんです。でもつらいと思うことはなくて、大好きな自然あふれる環境で働けることが、私にとっての優先事項。お客様が楽しんでくれて、『また来るわ。よろしくね。』なんて言ってもらえたら、すごく嬉しいですね。」

事業への思いと、これからのこと

坂内さん「『川治の自然』といっても、どこにでもある自然ではあるんです。でも、観光に来て自然を見ているだけでは感じられない魅力がある。川治の自然を学んで、魅力を知って、それをガイドとしてお客様に伝えられることが、私たちの仕事の喜びです。そして満足したお客様の姿を見ることが、やりがいに繋がっています。」

坂内さん「近い目標として、大谷地区事業の充実化と外国人観光客への受け皿の整備に力を入れたいと思っています。数年前、とちぎで頑張る仲間と一緒に、大谷地区の観光地作りに取り組みました。地域資源である採掘場跡地を『OHYA UNDERGROUND』として整備し、地底湖クルージング体験や食事ができる場として提供しています。観光地としてのきっかけを作ることができたと思うので、地域貢献の1つの形として収益に結びつくように、さらに盛り上げていきたいですね。また、日光は外国人観光客が多いですから、カヌー利用者も、平日は特に外国の方に焦点を当てる必要があると考えています。いらっしゃったときに、楽しい時間を過ごしていただけるよう、最大限の準備をしていきたいです。」

最後に宇大生へのメッセージを伺った。

坂内さん「ここ5年ほど、首都圏の大学と提携して大学生のインターンをお受けしています。大学生の時に職業体験をすることで、将来について、より明確なイメージを持つことができると思うので。大学からのインターン受入れの相談には積極的に応じているんです。自分は一度サラリーマンを経験してから、自分がやりたい仕事を見つけることができました。サラリーマンの経験は自分にとって、接客の基礎を学んだりとプラスになりました。でも、大学生のうちに興味を持った職業を体験することができたら、いざ社会に出るときの参考になると思って。大学生のうちに、インターン制度を積極的に利用して、自分の人生に生かしてほしいと思います。」

インタビュー・執筆
渡辺美和子|宇都宮大学地域デザイン科学部コミュニティデザイン学科2年

「川治の魅力=自然の魅力を伝えたい」という思いが、地元への移住や起業へのきっかけになる等、自分の思いを実現するために、決断や挑戦、努力をする、坂内さんの芯の強さに感動しました。また、伝えられる喜びを感じながら、大好きな自然をお客様と共に満喫できる今の仕事を、「働くことは自分の楽しみであり、生きがいである」と笑顔で語る姿には、輝きがありました。自分の人生も、胸を張って楽しいと言えるものにしたいです。自然の中で楽しい時間を過ごしてもらうために、新しく、個性的な企画を作り上げていくネイチャープラネットさん。ひらめきや思いを伝え合う、スタッフの温かい雰囲気が印象的でした。次回はぜひ、「アウトドア女子会」やアクティビティを体験しに行きたいです。ありがとうございました。

  • 栃木弁の面白さ