農村とフクロウ 農村とフクロウ

みなさん、フクロウというと、どのようなイメージをお持ちでしょうか?
いろいろな雑貨やインテリア、キャラクターなどでフクロウに接することがあると思います。大きな眼、平らな顔、まるい頭、くるりと回る首、などの姿を思い浮かべるかもしれません。また、夜の森を飛び回り、「ホッホー」という鳴き声を思い浮かべる人もいると思います。しかし、本物のフクロウを見たり、鳴き声を聞いたりしたことのある人はどれくらいいるでしょうか? また、フクロウは、大学がある宇都宮の近辺にいるのでしょうか?そして、フクロウを研究するとどのようなことがわかるのでしょうか?

私たち、農村生態工学研究室では、農村に生息する生物の生態研究や、保全再生の方法を研究しています。そして、その対象の一種として、フクロウの研究も行っています。ここでいうフクロウとは、フクロウ目フクロウ科フクロウ(Strix uralensis)のことを指します。先に述べたように、大きな眼が、まるい頭の前方に並んでついています。この、並んでいる、という点がフクロウの生態を表す特徴でもあります。動物は、一般的に肉食で狩りを行う種が、フクロウのように眼が前方に位置します。これは、獲物を捕まえるためには立体視することが必須であるからです。また、平らな顔にも意味があります。この平らな顔で、前方からの音を効率よく集め小さな音でも逃さず聞き取るといわれています。また、フクロウは耳が大変よく、音だけで獲物の位置まで把握することができると言われています。

耳の位置が左右非対称→音を立体的にとらえる
顔面のパラボラアンテナ状→集音効果があるとされている

フクロウの耳(羽毛をかきわけて撮影)

フクロウの体の特徴は他にもあります。風切り羽根の扇端にあるギザギザの突起により、飛翔の際にもほとんど音がしません。他の鳥は、羽ばたくと音が出ます。ぜひ、鳩やカラスが飛び立つときに注意して耳を傾けてください。けっこう大きな音がするのがわかると思います。フクロウは、この音がしないのです。これは、夜の森でとても役に立つ特徴です。また、フクロウは大変するどい爪を持っています。音を頼りに獲物の位置を調べ、よく見える眼獲で立体視し、そして音もなくとびかかり仕留めるのです。

フクロウの風切り羽根の扇端。ギザギザの突起部分の構造は、新幹線の騒音削減のためにパンタグラフの構造に生かされている。

フクロウの大きく鋭い爪。

ここまで書くと、デフォルメされて、雑貨やキャラクターとして親しまれるフクロウとは違い、とても逞しい野生動物としてのフクロウのイメージを持っていただけたのではないでしょうか?

フクロウの調査をしていると、フクロウ一家の語らいを聞くことが出来ます。フクロウの営巣は3月から5月にかけて行われますが、卵のうちや、ヒナが小さいうちは、メスが巣の中で卵やヒナを温めています。そのため、餌はオスが捕まえてきます。
フクロウ一家の語らいとは、どのようなものでしょうか? フクロウの巣の近くで観察用テント(ブラインド)に隠れ聞いていると、つぎのようなシーンに会うことができます。
静かな夜の森に、フクロウのオスの声が「ホゥ グルック ホゥ」と突然こだまします。すると、それまで静かだった巣が急ににぎやかになります。メスは「ギャー ギャー」と、すこし不気味な声をあげ、巣から飛び出ます。巣に残されたヒナも、「ピチー ピチー」と盛んに鳴きます。しばらくすると、またオスが「ホゥ」と鳴きます。それに応えメスも「ギャーギャー」と鳴きます。こうして、2羽が交互に鳴き交わしますが、その時、巣を中心に森の中をぐるりぐるりと飛び回ります。森じゅうにフクロウの鳴き交わしの声が響き渡るのです。これは、大変幻想的な音の風景です。そして、鳴き交わしがしばらく続くと、ぱたりと鳴き声がしなくなり、やがてメスがエサを持って巣に戻ります。巣の中では、ヒナたちが盛んに鳴いて、しばらくするとその声も止んでいきます。こうして、再び静寂の夜の森に戻るのです。

こうしたフクロウの営みは、大学のある宇都宮市内でも数多く行われています。特に宇都宮市北部の里山には多くのフクロウが生息しています。宇都宮大学は、素晴らしい自然に隣接し、研究の点から見てもフィールドに恵まれた大変よい環境にあるのです。

私たちは、フクロウの調査を通じ、農村の自然を明らかにしていきたいと考えています。農村の自然とは、「二次的自然」と呼ばれるものです。人の手が加わらない「原生自然」との対義語と思って下さい。日本の自然の多くが、こうした「二次的自然」です。二次的自然は、農業を通じた人の営みが形作ってきたものです。しかし、時代とともに農業の形がかわり、山の利用も変わるに従い、二次的自然の多くが荒廃してしまいました。
昭和30年代ごろまでは、日本の農業は集落内の山野で得た落ち葉や下草などを肥料として使っていました。また、動力は人力と畜力、畜力の餌はやはり山野から刈り取った草でした。家庭で使う燃料もやはり里山から得た薪や炭でした。二次的自然は、こうしたバイオマス利用の生活により形作られた自然だったのです。しかし、今の農村の里山は使われなくなって久しくなります。そして、獣害や希少な山野草の減少といった、さまざまな課題が生じています。

私たちがフクロウを研究対象とする意味は、ここにあります。現在の里山で、野生動物がどのような営みをしているかを明らかにするときに、フクロウはとてもよい調査対象種となります。フクロウは、里山の生態系のうち、高次捕食者としての位置付けにあります。したがって、その生態を明らかにすると、下位に位置する生物の生息状況なども見て取ることができます。また、フクロウは、里山に営巣するとともに、餌を田畑でも捕るため、里山とその周辺に広がる里地の調査にも適した種なのです。つまり、フクロウを調べることで、里山と里地のつながりや食べる食べられる動物のつながりを調べることができるのです。

さらに、私たちがフクロウを研究する理由がもう一つあります。それは、フクロウと人との関わりです。フクロウは精悍な猛禽類です。しかし、その姿は雑貨やキャラクターにもモチーフとして使われているように、たいへん愛くるしいものがあります。そのため、フクロウの保全再生活動は全国各地で行われています。宇都宮市には、こうした保全再生活動と地域振興の両方に取り組んでいる地域があります。私たちは、こうした地域の活動に参画させていただきながら、フクロウの保全再生活動や生態研究を行うとともに、農村地域の振興という地域貢献も進めています。

今後も、愛らしく、かつ精悍なフクロウのように、研究と地域貢献の両者を進めていきたいと考えています。

文・写真|農学部農業環境工学科 准教授 守山拓弥 イラスト|教育学部美術教育 小林瑞歩
  • vol.03|「本当にやりたいこと」に素直に生きる 坂本靖二さん
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