小さな過疎の町の挑戦 小さな過疎の町の挑戦

みなさんは那珂川町をご存知ですか。聞いてみると県内の人でも知らない人が多いようです。

県の東端、茨城県に接している人口16000人ほどの町です。私たち教育学部デザイン研究室が、まちづくりで連携しているこの町についてご紹介しましょう。

八溝山系の低山に立地する農山村地で、御多分に洩れず著しく人口が減少してきており、過疎地域として指定されている県内の3つの町の一つになっています。そう聞くとこれといった特徴もなく、みんな元気なく寂しく過ごしているかと思うかもしれませんが、実際は大いに異なっています。

もうすでに一部でよく知られている温泉トラフグを皮切りに、続々と町のポテンシャルを生かした地域産品を作り出しているのです。その温泉トラフグは町内の温泉から湧出する湯を利用してトラフグを養殖するというアイディアで、9年前に始められ現在では全国に追随するところが出て来ています。

魚というと地元・県立馬頭高校には全国唯一の淡水の水産科があり、数々の実績を上げています。近年だけでも、ホンモロコやウナギの孵化に成功したり、チョウザメを養殖しキャビアを採卵したり、那珂川のアユやサケを使った魚醤を生産販売したりしているのです。そのホンモロコの生産が町内の休耕田を使って本格的にスタートしていて現在6組合、約40名が携わっています。

農業の害獣として悩まされてきたイノシシを捕獲し新たな処理施設で解体して、その肉を「ししまる」ブランドで展開しているのは納得できるにしても、ウナギの養殖、マンゴーの栽培、コーヒー豆の栽培など、なんでこの町に?と思うような事業が続々出て来ています。これらを可能にしているのが、中学校の廃校跡に新規参入した製材業の副産物です。大量に出る間伐材や端材を熱源にしたボイラーにより、水温や温室内の温度を丁度よく維持して、養殖や栽培を可能にしているのです。

注目したいのは、温泉トラフグも廃校になった小学校のプールや校舎を使用して養殖を開始したことです。少子化によって廃校になった学校校舎がこの町でも続々出て来ましたが、現在残っている6校舎は、先ほどの製材工場、養殖場以外では、福祉施設、美術館、体験施設、生活支援施設に全て使われていて、活用方法に悩む自治体が多い中で画期的なことと思います。

なんでこの町に?がまだまだあります。特段の観光地でもないこの地に3つもの美術館があるのです。どれも理念も立地も個性的な美術館ばかり、中心市街地の街道から奥まったところにある木の格子に覆われた隈研吾さん設計の「那珂川町馬頭広重美術館」は歌川広重の浮世絵を中心とした町立の美術館、那珂川を望む丘に木の架構が馴染んでいる野沢正光さん設計の「いわむらかずお絵本の丘美術館」は14匹シリーズで知られる絵本作家いわむらかずおさんの原画を中心とした個人美術館、丘のふもとに現存のものでは北関東で最も古いとされる明治の校舎を再利用してつくられた「もうひとつの美術館」は障害のあるなしを超えて創造の根源を問うような作品を紹介するNPOによる美術館です。

学生のみなさんは、わが街は何もないところで、と紹介されることが多いですが、こんな例を見ると、自分の身近な地域にも何もないどころか次世代につながっていくような種がそこここに眠っていることに改めて気付くのではないでしょうか。

文|教育学部 教授 梶原良成
イラスト|教育学部美術教育 和良品美桜
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