里地里山の雑草管理と雇用の創出 里地里山の雑草管理と雇用の創出

里地里山の自然環境と生活環境が雑草によって劣化している現状を関係各位と共有化することを目的に、「戦略的な里の緑地マネジメント・現地視察in大木須」と題する里山ツアーが栃木県那須烏山市において2017年8月31日に開催された。このツアーは雑草と里山の科学教育研究センターが主催したもので、栃木県選出の国会議員をはじめ、農林水産省、栃木県、那須烏山市、地元住民が参加した過去に例を見ない分野横断的な取組みであった。一方、地方創生の掛け声の下に、大学が地域の知の拠点(COC:Center for Community)となって、魅力ある職場の創出と教育カリキュラムの改革によって有意な人材を養成する取組みが進められているが、地方の過疎化に歯止めが掛かっていない。教育カリキュラムはさておき、何故、魅力ある職場が地方に乏しいのだろうか? この点について、里地里山における雑草問題から考えてみたい。

学生にとって魅力ある職業とは

世の中には、高給で創造的な仕事ができる代わりに精神的にも肉体的にもタフな職業もあれば、給料は安いが転勤も残業も無く、土日がきちんと休める職業もある。どんな職業を選ぶか、どこに就職するかは人の自由であるが、何故か若者は都会に集まる。一体、若者は何故、都会に魅了されるのだろうか。それは都会には、芸術・文化から経済・金融まで、ありとあらゆる創造性豊かな職場があり、若者の多様な要求が満されているからである。無いのは農業と自然関連の職業だけである。都会に対して、田舎はどうであろうか? ガソリンスタンドの店員、農協の受付、学校の先生くらいのものである。職業の貴賎を云っているのではない。仕事の種類が余りにも少なすぎるである。マズローの欲求5段階説というのがある。人間の欲求は食べることや安全と云った低次の欲求から、他人や社会に認められたい、自分の夢を実現してみたいという高次の欲求まである。そもそも大学に入学した者は何かをやってみたいという高次の欲求があったはずである。したがって、大半の学生は、卒業後は創造的な仕事に就きたいと思っているに違いない。結局、創造的な職業、言い換えるならば「面白い仕事」が地方に不足しているから、学生が地方に就職しないということになる。

地方に魅力ある職場を増やすためには

では、何故、地方に魅力的な職場が少ないのだろうか? 新規の雇用を創出するためには、ある程度の地域の人的資源も必要である。例えば、創造的な職場の代表とも言える研究所をある地域に作るとする。若手の大卒を研究員に採用するとして、総務関係まで新卒を充てる訳にはいかない。そうなれば地元の人に頼らざるを得ない。ところがこの地元の人的資源、すなわち地域の労働力そのものが逼迫しているのである。理由の一つが少子高齢化である。兎に角、人が居ないのである。2017年の人口が1億2700万人で、30年後には1億人台まで減少すると予測されている。少子高齢化は益々、加速されるであろう。もう一つの理由は貴重な労働力が別の仕事に振り向けられているのである。長々しい説明になってしまったが、その余計な仕事こそが「草刈り」である。アジアモンスーン気候帯に位置するわが国では、夏ともなれば、まさに息苦しいほどに猛烈な勢いで雑草が蔓延る。アスファルトとコンクリートで覆われた都会と違って、水田、畑、果樹園、林業地、庭、道端、河川堤防、あらゆる場所から雑草が生えてくる。この雑草防除に地域の貴重な労働力が浪費されているのである。このことから、地域に魅力的な職場を作るためには、雑草防除に要する作業を外部に委託するか、いっそのこと雑草防除委託業務を魅力的な職業に変えるしかない。例えば、委託業務を地域植生管理業務として捉え、草刈りはもちろんのこと、地域の自然を活用した環境教育、観光、福祉、コンサルティングビジネスなどを起こせば、自然科学系から人文系まで、多様な雇用が創出され、その結果、学生の地方回帰が促されるに違いない。かなり独善的な考え方ではあるが、地域創生の鍵は実際場面で一番困っている雑草管理にどのように対処するかに掛かっていると云える。そしてもう一つ重要なことは、単なる雇用の創出でなく、雇用の中身が創造的で革新的でなければならないということである。リスクを恐れず斬新なアイデアを積極的に取り上げる環境を若者は求めているのである。

文|雑草と里山の科学教育研究センター 教授 小笠原勝
イラスト|教育学部美術教育 吉永健留
  • 廃棄物をエネルギーへ〜美しい地球であるために〜 株式会社アクトリー R&Dセンター