とちぎの高齢社会事情 とちぎの高齢社会事情

筆者の執務室(とちぎ終章学センター)周辺は、大学内とは思えない様相を呈している。日常的に「明らかに大学生ではなさそうな人」をたくさん見かけるからだ。無論、不審者ではない。本学が1991年から継続して開講している公開講座の受講者たちである。少々古いデータであり、一人で複数回回答しているケースもあるため参考程度にしかならないが、2012年度公開講座受講者にアンケートで年齢を尋ねたところ、「61〜70歳」が4割強で最も多数を占めた。決して多くはないが、「81〜90歳」「91〜100歳」という回答も見られた(*1)。筆者自身、学生時代は指導教官の下、公開講座の受付や講義補助のアルバイトをすることがあり、その際に可愛がってくれた「高齢者」たちとの交友は今もなお続いており、担当業務に協力してもらったり、インフォーマルな会合を持ったりするかけがえのない存在である。

栃木県の高齢者の特徴を示す興味深いデータがある。2014年度の介護保険の第1号被保険者1人当たり介護費を見てみると、栃木県は47都道府県の中で最も少なくなっている。また、介護保険の認定率は下から数えて5番目、という現状である(*2)。さらに、後期高齢者にかかる医療費も全都道府県で下から5番目(実績医療費ベース)で(*3)、雑な言い方かもしれないが、他都道府県と比較してみると「栃木県には元気な高齢者が多い」と言うことができる。

この背景にあるものは一体何だろうか。様々な要素が絡み合っていることは言うまでもないが、その一つとして行政機関を中心とする高齢者向けの学習機会の充実が挙げられる。栃木県が1979年に設置した「栃木県シルバー大学校」には近年、毎年500名を超える入学者がおり、2年間で所定のカリキュラムを修め、卒業後はボランティア活動や自治会等地縁組織において地域のキーパーソンとして活躍している。また、宇都宮市や小山市では、高齢者の社会参加を促進するための窓口を設け、学習機会の提供や相談対応にあたっている。学習率が上がると健康な人が増えるという調査結果もあり(*4)、手前味噌ではあるが本学の公開講座も含め、「高齢者の学び」が「とちぎの元気な高齢社会」を下支えしているのである。

2016年10月1日現在、栃木県の高齢化率は26.7%で、1人の高齢者を2.3人の生産年齢人口が支える構図になっている(*5)。これが2040年には、高齢化率は36.3%、1人の高齢者を1.3人の生産年齢人口が支える構図になると予想されている(*6)。下野新聞社による特集記事「終章を生きる」を契機とし、2014年から本学で開講している基盤教育科目「とちぎ終章学総論」では、こうした実情を単に悲観することなく、むしろ高齢者も支えられる側ではなく支える側になりうるとの立場から健康や介護、住まい方などの切り口で、高齢社会をポジティブに捉え直すことを目指している。多くの課題を抱える日本・栃木県において、高齢者も学生も、地域で暮らす誰もが「学び」を起点として社会の担い手に変容していくことが求められているのかもしれない。

*1)『宇都宮大学生涯学習教育研究センター研究報告』、第21号、2013.3.31より。  *2)厚生労働省老健局、「介護費の地域差分析について」、2016.3より。元の出典等は「介護保険総合データベース」(厚生労働省)、「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」(総務省)をもとに集計・推計したもの。  *3)厚生労働省保険局調査課、「平成26年度医療費の地域差分析」、2016.9より。市町村国民健康保険と後期高齢者医療制度の数値を用いている。  *4)日本経済新聞、1997.9.12、38面、筑波大学教授山本恒夫のコメントより。元の出典は国立教育会館社会教育研修所による調査。  *5)栃木県県民生活部統計課、「市町別年齢別人口(平成28年10月1日現在)―栃木県毎月人口調査年齢別人口調査結果表―」より。  *6)国立社会保障・人口問題研究所、『日本の地域別将来推計人口(平成25年3月推計)』より。
文|地域連携教育研究センター 特任研究員 土崎雄祐(平成23年3月教育学部生涯教育課程地域社会教育コース卒業) イラスト|教育学部総合人間形成課程 田宮知羽
  • vol.06|何が大切なのかを考え、丁寧に生きる 田中えりさん
  • 国内でカンピョウと言えば栃木県を思い浮かべる?